アイソトポマーを指標とした地球環境物質循環像の構築

 

環境物質の主要構成成分である生元素には、種々の安定同位体がある比率で存在しています。

アイソトポマー(isotopomer)とは分子内に種々の同位体を含む分子種を指し、元素や分子内位置の組合せによって、例えば温室効果ガスである二酸化炭素には12種類存在します。

isotopomers

環境中の化学・物理・生物プロセスを通じて、各物質のアイソトポマーの比率は変化します(これを分別を呼びます)。この情報を用いることで、環境中における物質の起源や生成・消滅プロセスを追跡することが可能になります。

 

以下に具体的なテーマな研究の方向性を紹介しますが、質量分析法・赤外吸収分光法・核磁気共鳴法などを利用した新規アイソトポマー計測法の開発を行っています。開発した独自の計測法を駆使し、微生物培養実験・光化学チャンバー実験などの模擬実験から、さまざまな環境における時空間分布の観測、数値シミュレーションによるモデル化を通じ、ミクロスケールからマクロスケールまで地球環境物質の循環解析を目指しています。

温暖化関連物質等の環境動態の定量的解析

 温室効果ガス

温暖化関連物質 温暖化関連物質として重要な二酸化炭素・メタン・一酸化二窒素に関する研究を行っています。 その発生源や生成・消滅過程に不明な点が多く、そのために全球収支が十分な精度で明らかになっていません。そこで、大気・海洋・陸域のさまざまな環境でのアイソトポマー計測を利用した温暖化関連物質の循環解析の高精度化を目指した研究を行っています。

 エアロゾル

エアロゾルは太陽光を散乱し放射収支に影響を与えることで、間接的に気候変動に関与しています。その不確実性を低減するため、硝酸や硫酸のアイソトポマー観測、とりわけ質量非依存分別(Mass-independent fractionation)に着目し、その大気中での生成過程の解明を目指しています。また、有機エアロゾルの起源となる揮発性有機化合物に関する研究も行っています。これらの研究はフィールド観測からラボ内の模擬実験(光化学チャンバー実験や植物培養実験等)を組み合わせています。

 生物地球化学循環

生元素(水素・炭素・窒素・酸素・硫黄 等)は植物や微生物の活動によって地圏・水圏・大気圏を循環しています。アイソトポマー情報はこのような生物が駆動する物質循環過程を追うツールとしても非常に有効です。本研究室が有するアイソトポマー測定技術はこれまで海洋、熱水域、森林、農地、畜産などさまざまなフィールドにおける循環過程の理解に応用されてきました。

 

地球と生命の関わりの研究

地球と生命は、その誕生から進化の過程で相互に深く関わっています。現在だけではなく、過去の地球環境における物質の循環解明も研究テーマの1つです。様々な古環境プロクシ、古環境シミュレーション、モダンアナログなどを通して地球環境変動を解析しています。平成24年度から世界トップレベル研究拠点(WPI)である地球生命研究所(Earth-Life Science Institute, ELSI)に参画し、地球や生命の誕生・進化の解明を目指した研究を加速します。

 

環境-食品-生体を通じた物質循環解析

地球規模の物質循環だけでなく、生体内、細胞レベルでの物質循環研究も行っています。特に最終代謝物質や代謝中間体のアイソトポマーに着目し、生体内代謝ネットワークに関する知見を得ること、さらにはそれらを利用した環境指標、生物の生理学的状態指標、ヒトの疾患状態指標の創出を目指しています。

 環境指標の創出

環境中に存在する代謝物質のアイソトポマー比から、その代謝物質の起源となる生物や代謝反応を特定し、生物の置かれた環境条件や代謝反応が起きた環境条件を推定することが可能です。しかしこれには、どのような環境条件下で、どのような生物や代謝反応が、どのようなアイソトポマー比を示すのかを知ることが必要です。生物種や環境条件を変えた培養実験から、生物・代謝反応の種類および環境条件と代謝物質アイソトポマー比との関連付けを行い、それに基づく環境指標の創出を行っています。

 医療診断技術としての利用

生体試料から得られる最終代謝物質や代謝中間体のアイソトポマー比の変化は、生体内の複雑な代謝ネットワークの変化を反映していると考えられます。尿や呼気などの生体試料に含まれる代謝物質のアイソトポマー比の変化を生化学的な見地から解析し、代謝物質のアイソトポマー計測に基づくヒトの生理学的状態、疾患状態診断方法の創出を行っています。

 食品化学への応用

食の安心・安全や価値保証の観点から、飲料・食品中のアミノ酸、有機酸、エタノールなどの低分子有機物に焦点をあて、それらのアイソトポマー計測に基づく原料・産地推定や偽和判別など、食品化学への応用を行っています。